お江戸でござる

2020-12-31

コタは、私のスマホに保存してある動画を見るのが好きだ。

 

毎食後、コタは「おかあちゃん、しゃしん、みせてー」と言い、私は10分程スマホを解禁している。

 

いつもコタが見ているのは、

電車の見える公園でパンを食べながら貨物列車を見る自分の動画、

1歳のとき、パンを独り占めして食べていたらパンを落としてしまった自分の動画、

下の子がバナナを食べていて、撮っている私がスマホを落としたので画面が真っ暗になる動画、

の3本である。

 

コタは嬉しそうにそれらを見て、

「かもつえっしゃ、ふぁーん(汽笛)って、うるさいの」

「あー、パンおちちゃった」

「まっくらになるの、おかあちゃん、おとしちゃったの」

と言う。

 

1回のスマホタイムの間に、何回何回もこの3本を繰り返し見ている。

 

飽きないのかな?

他のも見ればいいのに。

 

私は食器の洗い物をしながら、「コタ、またそれ見てるのー?」と言う。

 

コタは、チラッとこちらを見て、

すぐにスマホに目を落とす。

 

 

 

 

 

ふと、思い出したことがある。

 

 

 

 

私が子供の頃、NHKで「お江戸でござる」という番組があった。

 

夜8時からの45分間の番組だった。

最初の30分は時代物の喜劇で、その後は出演している演歌歌手の方が歌を披露し、最後の10分は江戸時代の解説という構成だった。

私は、座長の伊東四朗さんと、レギュラーの重田千穂子さん、時々出演する由紀さおりさんが好きだった。

江戸時代の解説は、杉浦日向子さんという方がしており、この解説がまた分かり易くて面白かった。

杉浦さんの柔らかい口調と柔和な笑顔も好きだった。

見逃さないように、毎週ビデオに録画していた。

 

 

私は、この「お江戸でござる」のある回を、ビデオで何度も何度も見ていた時期がある。

 

 

 

ある日の劇中で、出演者が串に刺さったお団子を食べるシーンがあった。

 

その時、一緒に見ていた母が「これ、お団子じゃなくてマシュマロだね」と言った。

私が「え?」と言うと、

母は「お団子何個も食べて、あんなにすぐに喋れないでしょう」と言った。

 

…確かに。

 

あんなにお団子をほおばったら、口の中はお団子で埋まる。

喋るためには飲み込まなければならない。

お団子は噛むのに時間がかかる。

しかし、みんな数回軽く噛んだだけでごっくんと飲み込んでいる。

そんな咀嚼数じゃだめだ。

丸飲みになって、喉に詰まってしまう。

あ、もしかして、全部は飲み込んでいないのかな?

でも、お団子の一部でも口に入った状態では、あんなにハッキリとは喋れない。

お団子のカケラでも、口の中にいるとけっこうモサモサするし。

 

…うん。

これはお団子じゃない。

お母さんの言う通りマシュマロだ。

串に刺さったマシュマロなんだ。

だからみんなすぐに喋れるんだ。

 

 

 

 

―ふふっ。

 

お団子に見立てたマシュマロ。

 

それをお団子っぽく食べる出演者。

 

お団子を食べているように見えるけど。

 

実はあれはマシュマロ…。

 

 

 

 

私はそれが面白くて面白くて、そのお団子のシーンを見たいがために何度もその回を見た。

毎日ではなかったが、45分時間が取れるときはいつも見た。

母に何度か「またそれ見てるの?」と呆れられてからは、母が出かけている時にこっそり見ていた。

マシュマロのお団子が、とにかく楽しかった。

 

 

 

 

コタも、

その3本の動画が面白くて仕方ないんだろうな。

どこかに、自分だけの、秘密の大好きポイントがあるんだろう。

 

 

 

私は「またそれ見てるのー?」って時々言っちゃっていたけど、気にしないでね。

コタはそれが好きなんだもんね。

堂々と見続ければいいさ。