本日は、引っ越しの届け出をするためにコタと市役所へ。
私は、市役所では先に面倒な手続きを済ませ、そのあとゆっくりお昼ご飯を食べたいと考えていた。
コタがご機嫌麗しく行けるよう、家を出る前におやつを食べさせ、
「これから市役所に行きます。
最初に、お母ちゃんは窓口でお仕事をします。
そのあと、エレベーターに乗ります。
4階に行って、お昼ご飯を食べます」と伝えた。
コタは「わかった」と言い、「えぴぴうぇいたー(エレベーター)、のゆ(乗る)?」と嬉しそう。
コタは市役所のエレベーターが大好きだ。
エレベーターでは「ドアが閉まります」「ドアが開きます」と女性の声のアナウンスが流れるのだが、それがとても好きで、家でもよく真似をしている。
さあ、コタはどのくらいエレベーターに乗るのを我慢できるだろうか。
『約束』をどこまで守れるだろうか。
市役所についてから入る前に、私は「先にお仕事をします。それが終わったら、エレベーターに乗ります」と再度コタに伝えた。
コタはまた「わかった」と言った。
受付の女性に転出届がある場所を教えてもらい、記入台へ。
それを記入中、早くもコタはそわそわし出した。
「おかあちゃん、えぴぴうぇいたーは?」
「おかあちゃん、こっち、いくー?」
「おかあちゃーーん」
「こっちくるのー!」
だんだん大きくなるコタの声。
私は、
「コタちゃん、先にお母ちゃんお仕事するって言ったよ。それが終わったら、エレベーター乗るから」
「待っててくれてありがとうね」
「お母ちゃんお仕事頑張っているから、応援しててね」
と、なんとかコタをなだめた。
コタは「えぴぴうぇいたー…」と半べそになりながらも、窓口に提出が終わるまで待っていてくれた。
市役所で回る窓口は全部で4つあった。
最初に転出届を提出した窓口で案内札をもらい、「お呼びしますのでお待ちください」と言われ、振り向いてコタを見る。
コタは、「おかあちゃん、おしごと、おしまい?」と、満開の笑顔だった。
(まずい…)と思った。
(この感じ、まずいぞ。彼は私のお仕事が終わったと思っているようだ)
私は申し訳なさそうに、
「コタちゃん、お仕事まだ終わってないのよ。あと3か所、行くの」。
「やーーーーっ!」
コタは発狂した。
「お仕事」に関する私とコタの見解の相違ー
私の「お仕事」=4つ全ての窓口を回る。
コタの「おしごと」=いっこのばしょでおかあちゃんがなにかやって、そこをはなれたらおしまい。
私の言い方が悪かったな。
確かに「お仕事」じゃ分からないよね。
そもそもなんだいお仕事って。
実は、家ではお皿を洗うことや洗濯物をたたむことを「お母ちゃんのお仕事」と言っていて、「お仕事」と言えばコタは割と素直に一人遊びをして待っていてくれる。
だから今回も使ったのだけれど。
そううまくはいかないか。
もっと詳しく言えば良かったのかなー…。
なんてぐるぐる考えていたが、そのうちにコタは泣き出してしまった。
「えぴぴうぇぇぇえぇいたあぁぁぁあーーーー」
静かな市役所の待合で、コタの叫び声がこだまする。
ちくりちくりと視線を感じる。
周りの職員さんは笑顔で見てくれているが、待合にいるおじいさんが睨んでいる。
うるさいですよね、ごめんなさい。
ああ、もう仕方がない。
「分かった、コタちゃん。一回だけ、エレベーターに乗って上に行こう。それで4階に行ったら、またエレベーターに乗って、ここに戻ってくるよ。わかった?」
コタは鼻水をなめながら(←汚いぞ)、「…わ、かっ…た」と嗚咽交じりに言った。
エレベーターのボタンを押したコタに笑顔が戻る。
(一回だけで納得するだろうか。4階に行ったら行ったで、ご飯食べたいってデッキのところに行くかもしれない。でも、約束したんだから戻ってこなくては!)
4階まで行き、いったんフロアに下りて、またエレベーターに乗り、1階へ降りる。
コタはすっかり大人しくなっていた。
1階につき、チン!と扉が開く。
「コタちゃん、楽しかったね。じゃあお母ちゃん、お仕事の続き、頑張るね」
私はそう言うと、窓口へ歩いた。
コタは素直について来た。
番号が呼ばれ、書類をもらい、次の窓口に行く。
私は今の窓口でのやりとりでお仕事が終了だと思われないように、コタに「次は13番窓口だって。1と3の数字を探してごらん。あるかなー?どこかなー?」と、数字が好きなコタの興味を引くように話しかけ続けた。
コタは「いち、あったよ、あ、さん、もあるよー」と嬉しそう。
そして2つ目の窓口も無事終了。
さあ。次は3つ目。
「コタちゃん、次は16番だって」と言うと、コタの雲行きがだんだん怪しくなっていった。
「おかあちゃん、おやつ、たべるー」
「困ったなあ。まだお仕事終わってないよ」
「たべるー」
「もうすぐ終わるよ。頑張ろう」
「たーべーるーぅぅぅ」とぽろぽろ泣き出した。
ああもう、仕方がない。
「コタちゃん、一生懸命に待っていてくれているから、1つだけ、おやつ食べていいよ。1袋じゃなくて、1つね。食べたら、最初の約束の通り、お仕事に行こう」
そう言い、すみっこのベンチで野菜チップスの袋を開けた。
コタはまた鼻水をなめながら(←母よ、拭いてあげりゃいいのに。でもその時はそんな余裕なかったのよ)、嬉しそうに袋の中に手を突っ込んだ。
そして1枚取ると、「えへへへ」と私を見て笑いながら、大事そうに食べた。
食べ終わると、「はい」と私に袋を返した。
これにはびっくりした。
本当に1枚で止めるとは思わなかった。
「約束守れたね、ありがとう」
私は袋を受け取ると、3つ目の窓口へ行った。
そこの窓口では、対応してくれた職員さんがおもちゃを貸してくれたので、コタは大人しく遊んでいた。
いよいよ次は最後の窓口。
私は「次のが終わったら、エレベーターに乗れるよ。もうすぐだよ。ああ、楽しみだなあ。早く乗りたいな。コタちゃんお腹すいた?お母ちゃんもすいた。お昼はね、にんじんパンだよ。楽しみだねえ。早く食べたいね」等々を間髪入れず喋り倒し、コタに何か言う隙を与えなかった。
こういう時、うきうきと楽しそうに喋るのがコツである。
コタもつられて「たのしみだねえ」と笑顔。
とても疲れるが、親もテンションを上げていかねばならない。
癇癪を起されるより、自分が疲れたほうがまだいい。
こうして全ての窓口が終わった。
「コタ!終わったよ!待っていてくれてありがとう!頑張ったね!えらかったね!さあ、エレベーターに乗るぞー!」とコタをくしゃくしゃに褒め、ハイテンションのまま4階へと向かった。
コタも嬉しそうに笑っていた。
その後は、4階のデッキでご飯を食べ、おやつもちょっと食べ、図書館のお庭に行って遊んだ。
コタは好きなように走ったり、高いところに乗ったり。
少しはストレス解消できたかな?
いやはや、
疲れた。
でも、
コタは大元の約束は守れなかったけれど、途中の2つの約束はちゃんと守れたね。
今日はそれでよし。
私は2回コタの癇癪に負けてしまったけれど、
無条件でコタの要望を聞いたわけではないので、まあ、よしとするか。
次からは、最初にエレベーターに一回乗せて、心を満たしてから手続きする方がいいかな。
何はともあれ。
うん。がんばった!