先日、家族でショッピングモールに行った。
そこで、コタが迷子になってしまった。
私がトイレに行き、コタとよちよち歩きの下の子を夫に見てもらっている時だった。
夫がちょろちょろ動き回る下の子に気を取られ、コタから一瞬目を離した隙に、コタはいなくなっていた。
でも、コタがいなくなったと聞かされた時、私はそんなに焦らなかった。
すぐに見つかるだろうと思った。
なぜなら、コタは母子分離不安があるので、パーっと走って行ってしまうことはあっても、必ず後ろを振り返って私がいるかを確認する。
もし私の姿が見えなくなったら、「おかあちゃーん」と呼ぶ。
だから、きっとそばにいるだろう。
きっとすぐそばの物陰から、私を呼ぶだろう。
夫と下の子はコタとはぐれたトイレの前で待っててもらい、私はコタを探しに行った。
トイレ横のエレベーターには乗っていないと夫が言うので、きっとこの売り場のどこかにいるはず。
私は耳を澄ませつつ、近くの電化製品売り場とゲームコーナーを一列づつ小走りで見た。
しかし、フロアを2周回ってもいない。
呼び声も泣き声も聞こえない。
ここにはいないのだろうか?
だとしたら…。
ここには何度か来たことがあり、コタの好きな場所は分かる。
このショッピングモールは「A館」「B館」「C館」と建物が3つあり、それぞれ渡り廊下でつながっている。
今、私たちはB館にいる。
コタはA館とB館をつなぐ渡り廊下の窓が好きだ。
いつも、一窓づつ立ち止まって、下の道路を眺めている。
その渡り廊下に行ってしまったのだろうか。
渡り廊下の先には一番大きなA館。
コタの大好きなエスカレーターもある。
大丈夫だろうか?
まさか1人で乗ってないよね…?
エスカレーターの先には、いつも何度も乗るコタのお気に入りのエレベーター。
いや、さすがにそんなに遠くまでは行かないだろう。
…でも、
可能性は無くは無い。
だって、泣き声が聞こえない。
コタは私たちがいないことに気付いているはず。
きっと大きな声で泣いているはず。
泣き声が聞こえないということは、相当遠くへ行っているのだろう。
A館のエレベーターを見に行った可能性は十分にある。
そのエレベーターの先は出口。
立体駐車場。
私はだんだん焦り始めた。
外に出ていないだろうか。
パニックになっていないだろうか。
私は急いでA館の渡り廊下に向かった。
渡り廊下にはインフォメーションがある。
もしコタがここを通ったのなら、インフォメーションの方が見ているかもしれない。
インフォメーションに着いた私は、息も切れ切れに、案内の女性に聞いた。
私「すいません、ここを、3歳くらいの男の子が通りませんでしたか?黄色い、リュックの、男の子、」
女性「特徴を教えて頂けますか?」
私「えっと、3歳の男の子で、黄色いリュックで、青いジャンパーを着ています、下は、えっと、」
女性「今放送かけたんですよ」
その女性はにこっと笑ってそう言い、インフォメーションのカウンターの奥の扉を開けた。
そこには、目を真っ赤にしたコタが、1人でちょこんと椅子に座っていた。
私が「コタ!」と声をかけると、コタは私と目が合ったとたん、ふぁーと泣き出した。
コタは泣きながらインフォメーションから飛び出してきた。
私がぎゅーっと抱きしめると、コタは更に激しく泣いた。
私はコタを抱きしめながら、インフォメーションの方に何度もお礼を言った。
コタが渡り廊下で泣いていたのを警備員の人が見つけ、インフォメーションに連れて来てくれたそうだ。
警備員さん、ありがとう。
きっとコタはパニックになっていたはず。
そのコタをインフォメーションに連れてきてくれてありがとう。
インフォメーションの方も、コタを落ち着かせてくれてありがとう。
コタを安全なところにいさせてくれてありがとう。
館内放送は全く聞こえなかった。
コタの泣き声ばかりに集中していたからだろうか。
コタは抱っこをせがみ、それからしばらく泣き止まず、抱っこもしばらく止めなかった。
しかし、迷子って怖い。
本当に、一瞬の隙にいなくなり、想像より遠くへ行ってしまう。
今までこんなことは無かった。
離れることはあっても、迷子になることなんて無かった。
だから、油断していたのかもしれない。
今回は、運良くケガもなく無事だった。
でも、もしエスカレーターに乗って転んでしまったら?
パニックになったコタが誰かをケガさせてしまったら?
屋内ではなくて、屋外だったら?
踏切のそばの電車の公園でだったら?
ゾッとする。
こういうことは起こり得るのだ。
コタには衝動性がある。
油断してはいけない。
その当たり前のことをしみじみと感じた出来事であった。