ここ数ヵ月で、コタはだいぶ積極的になった。
スーパーのレジで店員さんに「おねがいしまーす」と言ったり、
宅配便のお兄さんに「こんちはー」と挨拶したり、
公園で初めて会う子にも自分から話しかけるようになった。
人と接することが楽しくなってきたのかな、と私は嬉しく思っていた。
これは、先週、電車の見える公園に行ったときの出来事である。
お散歩や公園に行く時、「何か」を持っているのが好きなコタ。
その日はおやつの入ったタッパーを持っていた。
「何か」はコタのその日の気分で変わり、
プラレールの貨物列車の日もあれば、
スナック菓子の袋の日もある。
今日のタッパーには、アンパンマンミニミニチョコの開いた袋が入っていた。
公園でのおやつの時間にそれを2粒食べることを、コタはとても楽しみにしていた。
コタは、その大事な大事なタッパーを片時も離さずに、ジャングルジムや滑り台で遊んでいた。
ふと、ヨチヨチと、小さな女の子がコタに近づいてきた。
1歳半くらいだろうか。
その女の子が、コタの持っているタッパーを触りだした。
コタは真顔で固まった。
すぐにその女の子のお父さんが来て、
「〇〇ちゃん!だめだよ!人のものを取っちゃいけない!」と注意をした。
しかし、女の子はぺたぺたとコタのタッパーを触ったり、引っ張ったりし続けた。
コタは固まったままタッパーを触られ続け、振り払うこともせず、叫ぶこともしなかった。
じっと我慢しているようだった。
相手が小さい子だから、黙って我慢してあげているのかな、エライな、と私は思った。
コタが上手に我慢出来ているので、
私は女の子に「おやつ、気になっちゃうよねー」などと話しかけていた。
お父さんは、女の子への何回かの口頭注意のあと、コタに「ごめんね」と言って、女の子を抱っこで強制退場させた。
女の子が去っても、
コタは真顔で微動だにせず立ち尽くしていた。
私は、「コタ。よく我慢できたね。じゃあ、そろそろ3時だし、おやつ食べようか」と声をかけた。
すると、コタは突然、「わあーっ」と泣き出した。
私は「どうしたの?」と聞いたが、コタはただ「わあーっ」と叫びながら大粒の涙をぼろぼろこぼし続けた。
パニックの時の泣き方だった。
私は、コタの背中をなでながら、
「ちょっとびっくりした?」
「よく我慢したね」
「コタの大事なおやつだもんね」
「あの女の子、コタが良いもの持っていたから、気になっちゃったんだって」
「コタ、頑張って我慢したから、特別にチョコ3つ食べていいよ」
などと声をかけ続けた。
5分ほど、コタは大声で泣き叫んでいた。
じっと我慢できているから大丈夫だと思ったが、
突然のことにびっくりして、固まるしかなかったのか。
やがて落ち着いたコタは、
小さな声で「さん、たべる?」と指で3つを作り、
涙と鼻水に濡れた顔のままタッパーを開けた。
そしてアンパンマンミニミニチョコを3つ選んで食べた。
コタは、
自分発信の、自分のタイミングでのコミュニケーションは取れるようになってきたけれど、
予期せぬ形でのコミュニケーションは、まだまだ苦手なんだろうな。
相手が自分より小さな子でも。
まだ3歳で幼いから、
こういうことがあって当たり前なのだろうけど、
常に障害のことが頭にあるから、
どうしたって考えてしまう。
これは「性格」の範囲なのか、「特性」なのか。
≪つづく≫