コタはアンパンマンが好き。
早朝に放映している番組を録画しており、1日に1回は必ず見ている。
特に好きなのは、食パンマンとカレーパンマンが出てくるお話。
この回はもう何十回と見ている。
食パンマンとカレーパンマンがケンカをしているシーンがあるのだが、それを見て「おこってるね」「どうしておこってるの」、
戦うシーンでは、「あ、おちちゃったね」「ばいきんまん、とんでっちゃったね」、
と楽しそう。
今日、いつものようにコタがテレビの部屋でアンパンマン鑑賞をしていた。
上記のお気に入りの話。
先にコタが1人で見ていた。
私は下の子をおんぶして家事をしていた。
しばらくして、私は家事がひと段落したのでテレビの部屋に行った。
コタは、私を見て「ほかのにする」と言った。
「これは消していいの?」と聞くと、コタは頷いたので、私は停止ボタンを押した。
するとコタは、「ちがう!」と急に泣き出した。
私が「今ので良かったの?」と聞くと、「うん」と言うので、私はまた再生ボタンを押した。
先ほど停止したシーンから流れ始めた。
するとコタは「これじゃない!」と叫び始めた。
私「違うの?食パンマンは消していいの?」
コタ「けさない!みたい!みるの!」
私「見ていいんだよ。違うのにする?これでいい?」
コタ「みるの!みるの!おがあちゃん!もんちゃん!こうじゃない!」
突然のパニックが始まった。
これは手を付けられないヤツだ、と瞬時に分かる。
私は穏やかに、「コタ。ゆっくり話してくれなきゃわからないよ」と言った。
しかし興奮し始めたコタは止まらない。
「おがあちゃ!おがあちゃ!おがあちゃ!おがあちゃ!」を高速で連呼している。
もはや何を言っているのか分からない。
興奮し、呼吸もまともにできないくらい叫び泣いている。
顔は真っ赤、涙に鼻水ぐっちゃぐちゃ。
しまったなあ。気をつけてたのに。
最初に停止したのが良くなかったか?
でも、コタが消していいって言ったのに。
もっと慎重に確認すればよかったか?
私は、コタにクールダウンしてもらうため、別部屋に行こうとドアに向かった。
コタは余計パニックになり、
「いかないで!にげないで!おがあちゃ!」と私の服を引っ張った。
私はコタの前に座った。
コタは、「これしないで!これしないで!」とソファーにかかった布団を叩いた。
私は、コタが何を主張しているのか全く分からなかったが、うん、うん、と頷きながら、パニックのピークが過ぎるのを待った。
やがて、パニックが少し落ち着いて来た。
私はコタを軽く抱きしめ、また待った。
10分位経っただろうか。
コタはようやく話が出来る状態になった。
私はコタの背中をなすりながら、コタを刺激しないように努めて穏やかな声で聞いた。
「コタ。ごめんね。お母ちゃん、分からなかったの。何が嫌だった?」
コタはしゃくりあげながら、
「もんちゃん、みえなくして、もんちゃん、はいって」
と言った。
コタはお気に入りの猿のぬいぐるみのもんちゃんを持っていた。
それを、ソファーにかかっている布団の下にぐいぐい押し込んでいた。
コタと私でよくやる遊びがある。
それは『もんちゃんどこだー?』遊び。
コタがもんちゃんを隠して、「お母ちゃん、もんちゃんは?」と私に聞く。
私はたいてい瞬時にどこに隠してあるか分かるのだが、分からないふりをして「あれー?もんちゃーん?どこー?」と探す。
わざと見当違いなところを探して、「あれー?いないよー。ねえコタ、もんちゃん、本当にいなくなっちゃったよ?」と聞く。
するとコタは、嬉しそうにもんちゃんを出してきて、私は「あれー。こんなところにいたのー?」と大げさに驚く。
そういう一連の遊びがあった。
先ほど私が家事を終えてこの部屋に来た時、コタに「もんちゃんは?」と聞かれた。
私は、早くそばに行ってあげなきゃ、という思いから大急ぎで家事を終わらせて大急ぎで来たので、深く考えずにソファーの布団の下にいるもんちゃんを「ここにいるよ」と引っ張り出していた。
私は「そうだね。ごめんね。もんちゃんは、ここだよね」と、もんちゃんを布団の下に隠した。
コタは少し納得したようだった。
次にコタは、
「おかあちゃん、こなかった」と言った。
実は、最初にコタが1人でアンパンマンを見ている時、私はコタに何度も「おかあちゃーん、てれびのへやに、いきましょー?」と台所まで呼びに来られていた。
私は「うん。もうすぐ終わるから、終わったらすぐに行くね」と返事だけをし、すぐに行ってあげられなかった。
コタは3回くらい来ていただろうか。
今日の癇癪は、下地にこれらの積み重ねがあったのだろうか。
なかなかお母ちゃんが来てくれない。
もんちゃんどこだー遊びもしてくれない。
そして、停止ボタンを押されたことにより爆発―
最近、私も少しづつ癇癪の耐性がついてきて、冷静に対応できるようになってきた。
また、コタの話をきちんと聞くと、コタなりの理由がしっかりあることが分かった。
それが大人にとっては意味不明な理由でも。
癇癪の最中は、コタは意味不明なことや理不尽なこと(コタの言う通りに行動したのに「ちがう!」など)を叫ぶが、こちらは全部受け入れ、コタの気持ちを落ち着かせることが先決だ。
癇癪の最中に、説得や、矛盾を指摘しても何の意味も無い。
無茶苦茶な主張でも聞き、
落ち着かせ、
改めて主張を聞き、
それをまず全て受け入れる。
その上で、コタが理解できそうな範囲で、こちらの思いを伝えればいい。
機嫌の直ったコタは、また食パンマンとカレーパンマンの回を最初から見始めた。
「しょくぱんまん、おこってるねえ」と腫れぼったくなった目で笑っている。
今日は、コタにかわいそうなことをしてしまったな。
次に生かそう。