シリーズ~昔の日記を読む~ 第3話:おもちゃの渡し方

2021-02-08

コタが3歳1ヵ月、下の子が6ヵ月の時の記録である。

 

 

※   ※   ※

 

 

我が家にはベビーベッドがあり、下の子は主にそこで過ごしている。

ベッドの床面の高さは45センチ、柵の高さは70センチ。

コタはベビーベッドに寝ている小さな赤ちゃんに興味津々で、

眺めたり、話しかけたり、時々手を伸ばして柵の上から下の子を触ろうとしていた。

 

 

ある日のこと。

 

 

下の子はベビーベットでうつぶせになっていた。

コタがいつものように柵の外から下の子に話しかけていた。

 

コタの手には下の子のおもちゃ。

横25センチ、奥行き20センチ、厚みが5センチくらいで、

ボタンにレバーにベル、回すと音の鳴るカラカラ、数個のボールが通された棒がついており、指先を使って遊ぶ知育玩具。

重さは600gくらいだろうか。

 

コタは「あのねー、妹ちゃんね、これね、こうやってやるの」と、

下の子におもちゃの使い方を教えてあげていた。

 

可愛いなあ、と微笑ましく見ていたら、

コタがそのおもちゃを頭の上に持ち上げた。

 

 

あっ、と思った瞬間、

コタは柵の上からベビーベッドの中におもちゃを投げ落とした。

 

 

一瞬の出来事だった。

 

 

おもちゃは見上げている下の子の顔の上に落ち、

下の子は火のついたように泣き出した。

 

私は「妹ちゃん!」と叫びながら慌てて下の子を抱き上げ、

「大丈夫?痛かったね。もう大丈夫よ」となだめながら、ぶつかったところを確認した。

 

おでこが赤くなっただけで大丈夫そうだった。

 

 

ふっと安心してコタを見ると、

コタは固まっていた。

 

 

私と目が合うと、

コタの顔はみるみる歪んで真っ赤になり、

「ふあーーーん!」と泣き出した。

 

 

 

コタは分かったのだ。

自分が何か失敗してしまったことを。

 

 

 

でも、私は見ていたから分かった。

コタは妹におもちゃを渡そうとしていただけ。

 

渡し方を間違えただけだ。

 

 

 

私は大泣きする下の子を抱っこしながら、急いでコタを抱きしめた。

 

「コタちゃん、妹ちゃんにおもちゃ渡したかっただけなんだよね?

教えてあげてたもんね。

お母ちゃんがちゃんと見ていなかったから。

お母ちゃんが悪いの。

ごめんね。

コタちゃんは何も悪くないよ。

大丈夫だよ」と言った。

 

 

「ふえーーーん!」と泣き続けるコタ。

 

私は「大丈夫」「コタは悪くない」を繰り返し、ひたすらコタをなだめ続けた。

 

下の子はもう泣き止んでいた。

 

 

 

数分後、コタは徐々に落ち着きを取り戻してきた。 

 

私が「びっくりしちゃったね」と言うと、

コタはしゃくりあげながら「びっ…くい…した…」と小さな声で答えた。

 

 

 

 

 

もし私が成り行きを見ていなかったら、「おもちゃを妹に落とした」という事実だけでコタを叱っていたかもしれない。

 

 

 

子どもは時々予想のつかない行動をする。

 

親の一瞬の気の緩みが、身体の傷にも心の傷にもつながる。

 

気を付けよう、と身の引き締まる出来事だった。

 

 

 

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シリーズ~昔の日記を読む~ 第3話:おもちゃの渡し方・終